国際学会WONCA APR 2019での発表と”Outstanding Student Activity Award”受賞

5月16日、家庭医療、総合診療の国際学会 WONCA APR 2019(京都国際会館)におけるの僕の発表が、”Outstanding Student Activity Award”を受賞しました。
僕の発表に来てくれたみなさん、ありがとうございました。今回、僕は部長を努め、5年以上活動して来た大阪医科大学国際交流部の活動について発表させていただきました。
国際交流部の活動は留学生と受け入れ元の大学生双方に多大な利益があること、留学生との交流を学生組織が受け持つことの意義、学生がツアーガイドとなって留学生に英語で説明をする意義、低学年のうちに国際交流活動を体験できる意義、1年間に6カ国8大学の留学生と交流することにより、日本に居ながらにして留学体験ができる意義などを説明させていただきました。
会場のアジア各国からの参加者が非常に興味を持って聞いていただき、僕たちが当たり前と思って日常的に行っている留学生との交流活動は、日本や世界の多くの大学ではそうではないことを改めて思い知らされました。
僕自身、国際交流活動を通じて留学生から教わったこと、先輩から教わったことは数限りなくあります。時に単発で終わったり、個人の体験に留まりがちな国際交流ではなく、国際交流部があることの利点は、その継続性なのです。重要なのは、2006年に創設され13年間蓄積した国際交流部の経験とノウハウを次代に繋いで行くことなのです。今回、この発表をすることで、その活動の一端を記録として残すことができたのは、意義があることだと信じます。
会場では、たくさんのアジア各国からの参加者から、大阪医大への留学について問い合わせを受けました。これにより、さらに交流の和が広がればこんなにうれしいことはありません。

鈴木先生、小野先生ら発表を指導していただいた先生方、これまで国際交流部の活動を支えていただいた部員達、参加してくれた大阪医大生、全ての留学生に感謝申し上げます。
これを読んで興味を持った人は、ぜひ国際交流部の活動に参加してみてください。

井上カネアキ

I made a poster presentation at WONCA APR Conference 2019 on May 16th. My presentation at WONCA APR 2019 was awarded the “Outstanding Student Activity Award”.

Thank you those who came to my poster presentation at WONCA APR Conference 2019 today. I presented the activities of the OMC international Communication Club, which I’m a member of 5 years and served as the president last year.
I illustrated that the activities of ICC is beneficial for both the visiting international students and OMC students, the importance of student-run organization leading exchange activities, the importance of student-guided local tour, the benefit of providing a training environment for junior students, the unique virtual study-abroad experience by seeing students from 8 universities in 6 countries a year.
I was so happy that the audiences from various asian countries were eager to listen to my presentation and I was reminded that our activities are so unique.
As I reflect my own experiences, I have learned a lot from visiting students and senior students through the activities of ICC. One of the uniqueness of our club is its continuity. I believe the essential thing is to pass the experiences and know-hows of ICC, founded in 2006, to next generations of students. Today I was so happy that I made some contribution by publishing the activities of ICC for the first time .
It was so exciting that a lot of people who listened to my presentation showed interest in coming to OMC. I am looking forward to seeing that the international exchanges of OMC grow even more in the future.

I’m deeply grateful to Dr Tomio Suzuki, Dr Fumihito Ono for helping my presentation, and to all the ICC members, OMC students, and exchange students for realizing the activities of ICC.
If you get interested in, please don’t hesitate to come to an ICC event.

2019年5月16日 15:00 Kyoto International Conference Center
”The Mission and Activities of the Osaka Medical College International Communication Club”
Kaneaki Inoue, Fumihito Ono, Tomio Suzuki

Kaneaki Inoue

 

オックスフォード大学医学部留学記

2019年3月、僕は医学教育振興財団からの給費派遣生として、英国オックスフォード大学医学部に1ヶ月留学してきました。以下は僕のオックスフォード大学留学について一つの文にまとめたものです。英国の大学、そして医療現場の雰囲気を知りたい人、ぜひ読んでみてください。リンクはご自由にしていただいてかまいせん。

オックスフォード大学Acute General Medicineでの濃密な留学体験

大阪医科大学医学部医学科6年 井上 鐘哲

 

EAU(Emergency Assesment Unit)

“That was very good, Aki!”

オックスフォード大学John Radcliffe病院に来てから2週間、初めて患者さんを一人で診察し報告したとき、指導医のDr. Husseinにかけてもらった言葉です。

オックスフォード大学医学部の4年生は6週間、John Radcliffe病院のAcute General Medicine(急性期総合診療科)に配属されます。急性期総合診療科はEAU(Emergency Assessment Unit)を担当しており、24時間以上4日以内の治療が必要な、多種多様な疾患を持った患者さんを受け持ちます。患者さんの半分は救急から、半分はGP(一般開業医)からの紹介でEAUに入ってきます。配属中の医学生は患者さんの問診、身体診察を行いカルテを書き、鑑別診断を考え、所属診療チームに報告する「Take」という係を週2~3回こなします。Takeには9~16時のDay, 16~21時のEvening、21~翌朝9時のNight Takeがあります。オックスフォード大学の医学生は4年生から患者さんの問診、身体診察、採血など、日本の研修医がやるようなことはなんでもこなします。また、僕のような外国人留学生も同じことをやって当然と考えられています。

オックスフォード大学医学部での1ヶ月間の臨床実習が決まったとき、僕がAcute General Medicineに配属希望を出した最大の理由がこれなのです。今の自分に一番欠けているもの、すなわち英語での問診、身体診察の経験をこれだけ多く得ることができる機会は他にありません。

僕たちAcute General MedicineチームC3所属学生は、EAUに新たな患者さんが来院したことを指導医に告げられると、すぐに救急やGPからの情報を確認し、聞くべきこと、行うべき身体診察の検討をつけて、患者さんのベッドに向かいます。
患者さんに僕が医学生であることを告げ許可を得てから、問診、身体診察をさせてもらいます。
指導医に診察結果を提示したあと、指導医と共に患者さんの所に戻り、一緒に診断をします。僕が聞き取れなかった肺雑音や、見落とした皮膚の発疹を指導医が発見したり、自分が思いつかなった質問により、患者さんの疾患について劇的に見通しがはっきりすることがあり、とても勉強になります。僕が書いたカルテは、指導医のチェックの後、正式なカルテとして後に残るので、気が抜けません。 

こちらに来てから2週間、EAU内で待機して、次から次にやってくる患者さんに、オックスフォード大生とペアを組んでTakeに出かけることを繰り返しました。彼らは既に相当のトレーニングを積んでおり、流れるように問診と身体診察を行う様を隣で見るのは非常に勉強になります。しかし、いまだに一人でTakeを行うチャンスがなく、率直に言って少し焦っていました。ペアでやるとどうしても相棒に頼ってしまい、自分の力を伸ばすことができません。このままだと、本当に自分に必要な経験を得て帰ることができないかもしれない。何のためにイギリスにまで来たのだろう?

この日、たまたま相棒の学生が不在で一人だったので、思い切って上司の先生に頼んでみました。患者さんが来たら一人で診ますからぜひ当ててください、と。午後も3時を過ぎて立て続けに患者さんが来院し、救急の廊下にまであふれだしたとき、「Aki、この人を診てこいよ」と先生が名前とIDを渡してくれました。二つ返事で引き受けて、時間がかかったけど問診、身体診察を行い、診断結果を提示した後、かけていただいたのが冒頭の言葉です。これを機に、後半の2週間は一人でTakeをこなせるようになりました。

病棟での採血についても同じ経験をしました。患者さん相手の採血経験がほとんどなく、最初は尻込みしていた自分も、採血をするオックスフォード大生に付き添って、声のかけ方、道具の揃え方、採血後の処理などの流れを把握するうちに、2週間後には一人で採血をこなすようになりました。初めての採血中、同僚のオックスフォード大生が隣でアドバイスをしてくれて、助けてくれたのは本当にありがたかったです。

Takeにおいても採血においても、一人ではできないことが、こうやってチーム内でお互い助け合い、学び合うことによって、できるようになる。仲間がいることのありがたみをひしひしと感じました。同じチームの4人のオックスフォード大生イヴァ、フラン、フランキー、レックスとは、EAU、病棟、授業などで1ヶ月を共に過ごし、ランチを食べながら、イギリス、日本、将来の夢など様々なことについて語り合い、笑い、最後にはパブで送別会まで開いてもらい、一生の友達になりました。

 

英国の医療制度とGP

英国の国民医療制度(NHS)では医療費は無料であり、人々は最寄りのGPに登録し、救急を除き、まずはGPの診察を受けることが義務付けられています。対して日本の医療は長く医療機関自由選択制をとってきましたが、GP制度への移行が提唱されており、主治医報酬の導入、総合診療専門医の新設などが段階的に行われてきています。今回の英国留学の目的の一つは、英国のGP制度の実態を自らの目で見て、日本の将来の医療のあるべき姿を考えることでした。
John Radcliffe病院で実習を開始してすぐに気づいたのが、この病院には日本のどの病院でも見られるような、会計とその前で待つ患者さんの長蛇の列が見当たらないことでした。診察を見学した総合診療外来では、患者さんは全員がGPから紹介されて来院しているせいか、待合室が過密ではなく、結果として一人ひとりの問診、身体診察、検査に十分な時間がかけられていました。

これに対して、救急科(Emergency Department)は、日夜問わずたくさんの患者さんであふれていました。GPからの紹介が必要なく、無料で受診できることが患者さんが多い理由と考えられます。外傷などを除いた救急科の患者さんの多くは、僕たちが所属するEAUが診察しますが、無料であることも幸いしてか、僕が診た患者さんの全員が、医学生の臨床参加にとても協力的でした。

滞在中、オックスフォードの中心部にあるクリニックでGPをされているDavid McCartney先生の診察を見学することができました。GPを受診する患者さんの疾患は、軽度の精神疾患から外傷、さらに腎移植手術後の長期ケア、COPDや慢性腎不全などの慢性疾患のケアなど、多岐にわたっていました。

McCartney先生にGPの仕事において一番大事なことは何なのかを聞いてみた所、患者さんと長期間の信頼関係を作ることという答えでした。一人一人の患者さんの健康を長期間見守り続けるGPという仕事の志を垣間見た思いがしました。 

 

カレッジで暮らす

オックスフォード大学は44のカレッジで構成され、それぞれのカレッジに学生は所属し、カレッジ内で暮らし、そこから法学部や医学部など所属する学部の校舎に通います。カレッジ対抗のスポーツ大会も多く、勉学以外でも様々な面で競い合っているようです。

僕はGreen Templeton Collegeに1ヶ月間所属し、生活しました。Green Templeton Collegeには特に医学、経済学や社会学専攻の学生が多く所属します。

各カレッジ内には寮、講義室、チャペル、図書館、食堂、バーを備えた娯楽室、洗濯室、ジムなどの建物が庭園の周りに美しく配置されています。カレッジ内で暮らしてみてわかったのは、これほど勉学に理想的な環境はないということです。寮の部屋には共同のキッチンが備わり、ラウンジには常に無料のコーヒー・紅茶があり、知り合いと雑談を楽しむこともできます。図書館は24時間開いており豊富な医学書がいつでも読めて貸し出せます。何より19世紀の歴史的建造物の中で美しい庭園を眺めながら勉強し、思索にふけることは、他では得難い贅沢な体験でした。

留学中、午前6時に起きて各カレッジの荘厳な建物を横目に見ながらオックスフォードの街をジョギングすることが自然と日課になりました。John Radcliffe病院にはIvy Laneという寮があり、そこに滞在する留学生も多いのですが、病院は各カレッジがある街の中心部から遠いのが難点でした。よって僕はカレッジに滞在することを選択し、£80(1.1万円)で中古の自転車を買って病院まで通うことにしました。病院まで自転車で毎朝20分かけて、美しいオックスフォードの街と小川が流れる公園を眺めながら通うのは、面倒などころか毎朝の楽しみでした。

各カレッジには、フォーマルディナーという伝統があります。カレッジに所属する色々な学部の教授陣や学生がカレッジ内のダイニングホールに集まり一緒に食事することで、親交を深め、他分野の人の話を聞くことで見聞が広がる意義があります。Green Templeton Collegeは毎週水、木曜日にフォーマルディナーがあります。滞在中出席したフォーマルディナーでは、食卓の向かいに座った経済学の博士課程の学生や隣のアフリカからの学生と話に花を咲かせました。食事後はコーヒーを飲みながら、中国から来ている公衆衛生学の研究者や、北京大学からオックスフォードのビジネススクールに留学中の学生、同じ医学部の学生達と親交を深めました。

 

臨床実習の留学生達

言うまでもないことですが、オックスフォード大学は英国を代表する国際的な大学であり、キャンパスでは世界中の色々な国から集まった人達に出会います。医学部には様々な国から医学生が臨床実習に集まっており、彼らから世界各国の医療事情や生活を知ることは、とても刺激的な体験でした。僕は仲良くなったブラジル人留学生と共に、留学生親睦会を病院近くのパブで主催した結果、10カ国16人の留学生が集まり、楽しい時間を過ごすことができました。いつも世界の医学生と出会うと、文化による違いよりもむしろ共通点の方を強く感じて、すぐ に仲良くなれます。医療を通じて人々を救いたいという共通の志が、僕たちを結びつけるのかもしれません。

オックスフォード大学医学部の臨床実習担当者Carolyn Cookさんは毎週、新しく来た留学生を僕たちに紹介し、留学生のコミュニティ作りを助けてくれました。滞在中、留学生同士は常にそれぞれが在籍する病院の各診療科や、講義や手技実習の情報などを共有し、助けあって実習を成功させようという雰囲気にあふれていました。

 

イギリス英語

僕が今回の英国留学についていちばん気がかりだったのは、イギリス英語でした。米国の滞在経験があるおかげで日常英会話には苦労しない方なのですが、英国への留学は初めてであり、イギリス英語をしゃべる医師や患者さんの会話が聞き取れるのだろうか不安でした。その不安は、オックスフォードに来てからすぐに取り越し苦労であったことがわかりました。John Radcliffe病院の人達は英国人、外国出身者を含め、ほとんどが聞き取りやすい発音でしゃべり、発音に癖がある人はほんの一部でした。また、John Radcliffe病院を受診する患者さんのほとんどはきれいな発音の英語をしゃべります。オックスフォード、ケンブリッジ地域の発音が標準英語として採用されているという事実を肌で実感することができました。当然、患者さん相手の問診ではほどんど問題がなく意思疎通ができ、日本から実習に来ていることを話すと激励の言葉をもらったり、日本の生活やイギリスの印象について聞かれたりと、たくさんの患者さんと心の触れ合いを経験することができました。

 

オックスフォードでの生活

オックスフォードの街は、どこからどこまでがオックスフォード大学という境界がなく、街中に各学部の建物、カレッジの建物が散らばっています。歴史ある各カレッジは荘厳なチャペルや美しい庭園を備え、映画ハリー・ポッターの撮影に使われたChrist Church Collegeを初めとして、ほとんどが有料で観光客に公開されています。オックスフォード大学の学生は学生証を見せるだけで、全て無料で見ることができ、僕もカレッジ巡りを楽しみました。病院での実習以外の時間は、歴史的建造物であるラドクリフ・カメラという図書館で勉強したり、シェルドニアン・シアターでクラシック音楽を聴いたり、中心街にある英国最古のカフェで美味しいスコーンと紅茶を楽しんだりと、毎日、充実した時間を過ごすことができました。

英国の物価は安いとは言えず、外食は通常£10(約1450円)はかかるので、普段の食事はTESCOなどのスーパーで買って済ませていました。John Radcliffe病院の食堂も特に安くはなく、オックスフォード大生も、昼食を自分で作って持ってきている学生が多いようでした。

オックスフォードの治安は非常によく、警察官の姿を見かけるのはまれであり、病院のNight Takeが終わって深夜2時に所属カレッジまで帰る時でも、中心街に人の姿は多く、特に危険を感じることはありませんでした。

オックスフォードからロンドンまでは鉄道で約1時間、往復£15(約2200円)程で行くことができ、週末にはロンドンで他の英国短期留学派遣生と会ったり観光をすることができました。以前からの友人の英国人医師夫婦と再会し、車でStonehengeやBathを観光したのも良い思い出です。

 

積極的姿勢は自らを助ける

オックスフォード大医学部での1ヶ月間は、自分の想像を超える濃密な留学体験になりました。その最大の理由は間違いなく、ウィリアム・オスラー元教授の教えを受け継ぎベッドサイドでの教育を重視するオックスフォード大学医学部の文化にあります。また、NHSによる無料の医療制度のおかげで患者さんが医学生の診療参加に非常に寛容であり、僕たち留学生に英国の医学生と同等の診療参加の機会が与えられているのも、他の国の医学部にはない特長と言えます。

とは言え、ただオックスフォードに行くだけで、自動的に充実した実習体験が得られるわけではないことも事実です。僕の場合、留学の4ヶ月前から自大学の留学予定者と診療英会話の練習会を作り、週1回、ペアを組んで英語での問診をお互いに行う練習を繰り返しました。先述のように、その準備を持ってしても、単独で患者さんの問診、身体診察を行えるようになるまでには渡英後2週間を要しました。同じAcute General Medicineに所属している各国からの留学生を見ても、一人で問診を行っていたのは、僕以外はブラジル人留学生の一人だけでした。ある留学生にできない理由を聞くと、英語力に自信がなく踏み切れないとのことでした。ブラジル人留学生は、英国で研修医になることを考えており、所属チームの指導医の先生から良い推薦状をもらうためにも、積極的に実習に取り組んでいました。

この積極的姿勢は、実習から得られる経験と正比例の関係にあります。John Radcliffe病院などのNHS傘下病院では、患者さんの電子カルテを閲覧するためには専用のICカードが必要ですが、これは自動的に与えられるわけではなく、病院の担当部署にその必要があることを自ら説明して取得する必要があります。僕は他の留学生から聞いてこれを知り、滞在2週目までには手に入れていました。Takeにおいて患者さんへの問診の内容を決めるのに、電子カルテ内の救急隊からの情報やGPからの紹介文はとても役立つからです。しかし、多くの留学生はこのカードを取得しておらず、そうなると必然的に積極的にTakeに関わらなくなります。留学生の診療参加はそれぞれの自由意志に任されているので、消極的な態度でいると失敗もしない代わりに何も学ぶことがないまま実習が終わってしまう危険もあるのです。

採血においても、僕は少しでもうまくなるために、複数の留学生に声をかけて、留学生同士で採血をし合って練習しました。滞在中、Teachingと言われる各種講義に出席しましたが、そこでも僕は積極的に発言して講義に参加するようにしました。そうする内に、自分の診療チーム以外のオックスフォード大生にも知り合いが増えて行きました。

Takeを始めとする病棟実習では、初めは勝手がわからず苦労しましたが、周りのオックスフォード大生はそんな僕を見てもまったく馬鹿にすることはなく、親身になって助言をくれ、事あるごとに助けてくれました。文化は違えど、積極的な姿勢は必ずその国の人に伝わり、味方になってくれることを確かめられたのは、将来外国での医療に携わる希望がある自分にとって、大きな自信になりました。このようにオックスフォード大生とまったく同じ実習をこなし、濃密な指導を受け続けた結果、1ヶ月後には、患者さんの前で、以前より落ち着いて為すべきことを行えるようになった自分に気づくようになりました。

実習終了時、所属チームの指導医に実習評価表にいただいた「Very motivated and active」という言葉と、同じチームのオックスフォード大生が寄せ書きに書いてくれた「Your kindness and enthusiasm have been very inspiring!」という言葉は僕にとって今回の留学の何よりの勲章です。

最後に

オックスフォード大学への1ヶ月間の留学では、John Radcliffe病院での質量伴った実習体験に加え、オックスフォードというイギリスを代表する古都でイギリス文化の奥深い伝統に触れることができました。また、多種多様な目標と価値観を持つ人たちが世界中から集うカレッジに居住し、オックスフォード大生、留学生を始めたくさんの人々と親交を結ぶことができたのは、かけがえのない経験になりました。来年以降にオックスフォード大学に来られる日本の医学生の皆さんも、ぜひカレッジでの滞在を考慮し、実習においては積極性を忘れずに取り組んでいただければ素晴らしい経験が得られると信じます。

 

謝辞

僕を暖かく迎えていただき、たくさんのことを教えていただいたオックスフォード大学のCarolyn Cookさん、Dr. Zeinab Hussein、Dr. Jo Hardwick、Dr. Krishna Navaneetham、Dr. Tim Rajakumar、Dr.Anna Fries、所属チームの同僚のEva Zelber、Francesca Roxburgh、Frankie Bell-Davies、Rex English、教育のためならと僕の診察に快く協力していただいたJohn Radcliffe病院の患者さん達、英国でお世話になった全ての人々、今回の留学の実現にご尽力いただいた小野富三人教授、大槻勝紀学長ら大阪医科大学の皆様、そして医学教育振興財団の皆様に厚くお礼申し上げます。

 

滞在中の必要経費

交通費    Heathrow空港からOxfordまでの往復バス代 £30

Oxfordでのバス回数券代(5日) £15

自転車(中古) £80

滞在費    洗濯費等 £15

寮費      Green Templeton College accomodation 一ヶ月£565

食費      1日約£15

Green Templeton College Formal dinner £13.12

実習費    なし

通信費    携帯SIM £20

連絡先

e-mail: kaneaki21(at)gmail.com

Facebook: facebook.com/kaneaki21

Homepage: kaneaki.net

オックスフォード大留学についてご質問があればいつでもお気軽にご連絡ください。

 

University of Oxford 医学部留学 Part 13

My siblings in Acute General Medicine Firm C3,

As I’m writing this on the way to London, I’m recalling the past four weeks in Oxford.
I knew my Oxford stay would be challenging. But I could not have imagined it would be filled with such joy and warmth thanks to you Firm C3 students.
Eva, Fran, Frankie and Rex, you were always helpful when I hit obstacles and when I was frustrated by my inexperiences.
I believe one of the proofs of true leadership is giving an unconditional help to a person. It is exactly what I was given by every one of you guys.
I won’t forever forget the March in Oxford.
I hope all of you to visit Japan one day and drop me a line. I look forward to showing you around.
Many thanks for everything. I will wear the Oxford hoodie you gave in my morning jog.
I wish every one of you all the best.

Aki (Kaneaki Inoue)

 

University of Oxford 医学部留学 Part 12

僕のオックスフォード大学医学部での最後の日が終わりました。

1ヶ月間、このEAU(Emergency Assessment Unit)の門をくぐり、”Take”、すなわち患者さんの問診、身体診察を行い、鑑別診断を指導医にプレゼンすることを繰り返しました。
最初の2週間は、オックスフォード大の4年生とペアを組んで、後半の2週間は、一人でこなすようになりました。

多種多様な疾患を持った患者さんがJohn Radcliffe病院に来ます。EAUに新たな患者さんが来院したことを指導医に告げられると、すぐに救急やGPからのレターを確認して聞くべきことの検討をつけ、行うべき身体診察を確認し、患者さんのベッドに向かいます。
患者さんに僕が医学生であり、問診、身体診察をさせてもらうことを了承してもらい(拒否されたことは一度もありませんでした)、患者さんによっては英語の聞き取りに苦労しながらも、問診、身体診察をさせてもらいます。
指導医に結果と鑑別診断を報告したあと、指導医と一緒に患者さんの所に戻り、一緒に診断をします。僕が聞き取れなかった肺雑音や、見落とした皮膚の発疹を指導医が発見したり、自分が考えつかなった、質問により患者さんの疾患について劇的に見通しがはっきりすることがあり、とても勉強になります。僕が書いたカルテ(NHS clerking proforma)は、指導医のチェックの後、正式なカルテとして後に残るので、気が抜けません。

今日は僕の最後のTakeの日、午後遅く受診された患者さんを待合室まで迎えに行き、精魂込めて問診、身体診察を行い、頭を振り絞って鑑別を考えました。
指導医との診断のあと、少し安心したお顔でEAUを後にされる患者さんを笑顔で見送りながら、この1ヶ月、悪戦苦闘しながら頑張ったことで、少しでも自分に自信がついたことを感じていました。

これまで1ヶ月間、異国で慣れない僕に手をとってたくさんのことを教えてくれたAcute General MedicineのFirm C3の皆様方、本当にありがとうございました。力不足をわかっていながらも、患者さんを割り当ててくれと言う僕の言うことを聞いてくれた指導医の先生達、鑑別を聞きながら的確なアドバイスを常に与えてくれた先生達、そして僕を足手まといに思うどころか、常に親切にTakeや採血のやり方を教えてくれたFIrm C3のオックスフォード生達、感謝してもしきれません。
医学部の選択実習担当のCarolyn Cookさんには、オックスフォードでの生活の様々なことまで教えていただいて本当にお世話になりました。
ここで得た経験は、今後の自分の医師としてのキャリアにとって重要な一歩になると確信しています。オックスフォードで僕にかかわった全ての人に感謝申し上げます。

井上カネアキ

 

University of Oxford 医学部留学 Part 11

イギリスには、General Practitioner制度があります。

General Practitioner(略称GP)は一般開業医であり、病気になるとGPが診察し、専門的な治療が必要とGPが判断すると総合病院などに紹介する制度です。
英国の国民医療制度(NHS)では医療費は無料であるが、最寄りのGPに登録し、救急などを除いて、まずはGPの診察を受けることが義務付けられています。

僕が研修しているJohn Radcliffe病院のEmergency Assesment Unit(EAU)で診る患者さんは、半分が救急からの患者さん、残り半分がGPの紹介で来た患者さんです。
EAUで患者さんの問診前にカルテを読みながら、GPがどのような判断でこの患者さんを紹介してきたのか、日々興味深く感じていました。
今回、オックスフォード大学医学部の紹介でオックスフォードの中心部にあるクリニックでGPをされているDavid McCartney先生の診察を見学することができました。

およそ2時間の見学でたくさんの患者さんの診察を見ることができました。受診する患者さんの疾患は、軽度の精神疾患から外傷、 さらにCOPDや慢性腎不全などの慢性疾患のケアなど、多岐にわたっており、それをすべて一人でこなすGPの仕事振りには関心しました。

McCartney先生に、日本にはGP制度がなく、どの医療機関も受診できるフリーアクセス制度であること。しかしそれに伴い総合病院の専門外来の受診患者数が多すぎること、コンビニ受診や検査の増加などの医療費のムダもあることを話し、GPの仕事において一番大事なことは何なのかを聞いてみました。

GPの役割で一番大事なのは、いかに患者さんと長期間の信頼関係を作ることだということでした。
礼を言ってGPクリニックを辞し、自分の今後の進路について思いを馳せながら、オックスフォードの街を自転車で走りました。まだオックスフォードは肌寒いけど、春はすぐそこまで来ているようです。

井上カネアキ

University of Oxford 医学部留学 Part 10

Australia
Belgium
Brazil
China
Italy
Japan
Jordan
Netherland
Turkey
USA

10 countries, 16 persons.

Once again, we Oxford medical electilve and research students gathered at the pub near John Radcliffe hospital last night.
Some students like me are going to leave here this week, some has just come. We exchanged hellos and farewells and pledged to remain friends after the Oxford life.
I learned a lot from other elective and research students who are in different departments in Oxford U. hositals and having different experiences.
Hearing about other countries’ culture is also fun. But I often find similarities rather than differences among us because we are after all sharing the same spirits as future doctors.
Many thanks for coming and let’s keep in touch guys!

Kaneaki Inoue

University of Oxford 医学部留学 Part 9

オックスフォード大学を構成する各カレッジには、フォーマルディナーという伝統ある風習があります。
カレッジに所属する色々な学部の教授陣や学生がカレッジ内のダイニングホールに集まり一緒に食事することで、親交を深め、他分野の人の話を聞くことで見聞が広がる意義があります。
フォーマルディナーは毎日出席するのが義務のカレッジ(Merton college等)や、そうでないカレッジがあります。
僕が所属するGreen Templeton Collegeは毎週水、木曜日にフォーマルディナーがあり、昨夜のフォーマルディナーに出席しました。
まずは2階のCommon Roomでシャンパンを飲みながら挨拶したあと、ディナーホールに入ります。
カレッジの名誉フェローの合図で食事がスタートし、僕は向かいに座った経済学の博士課程の学生や隣のアフリカからの学生と話に花を咲かせました。
食事後はまたCommon Roomに戻りコーヒーを飲みながら、中国から来ている公衆衛生学の研究者や、北京大学からオックスフォードのビジネススクールに留学中の学生、僕と同じ医学部の学生達と親交を深めました。
言うまでもないことですが、オックスフォード大学は国際的な大学であり、キャンパスでは世界中の色々な国から集まった人達に出会います。
今回、ただ医学を学ぶのみではなく、イギリスの奥深い伝統を味わいながら、世界各国の人々と親交を深めることができるこのような機会に恵まれたことは、本当に幸運だったと思います。
来年以降にオックスフォード大学に来られる日本や世界の医学生の皆さんも、ぜひカレッジの生活を楽しんでいただければと思います。

井上カネアキ

 

 

University of Oxford 医学部留学 Part 8

時の経つのは速いものです。

オックスフォードを去る日が5日後になるのがまだ信じられません。
今晩、僕の救急総合診療科チームC3のメンバー、イヴァ、フラン、フランキー、レックスが親切にも僕の為に、カレッジの近くの素敵なパブでお別れ会を開いてくれました。
ひとしきり、これまでの数週間でチームC3で起こったことをネタに笑ったり、オックスフォード大と大阪医科大での学業や生活について、みんなの医師としての将来について語り合いました。
僕は、みんなと患者さんの診察や採血などを行い、彼らがどうやっているかを隣で見て学ぶことが本当に多かったことを感謝しました。
この一緒に過ごした1ヶ月をずっと覚えてほしいと思い、僕はみんなと撮った写真を持ってきて一人ひとりにプレゼントしました。
もうすぐ僕らは別々の国で、それぞれの人生を歩むことになるけれど、心はずっとチームC3の一員であり、ここで育んだ友情を忘れることはないでしょう。

みんな本当にありがとう。

井上カネアキ

Time flies past. Literally.

The day I leave Oxford is only 5 days away which I couldn’t believe.
This evening, my Acute General Medicine Firm C3 colleagues, Eva, Fran, Frankie and Rex, were so kind to have a farewell dinner for me at a cozy pub near my college.

We had good laughs about our everyday life in Firm C3, and talked about our life in each medical school and our futures as physicians. I talked about how I am grateful for having great experiences in doing all such things as clerking patients in take, blood taking, rounds and classes together and leaning from them.

I shared the photo of us because I hope all of us to remember the days we are together.

I will never forget the friendship with them and continue to be part of the Firm C3 even if we lead different lives in different countries.

Thank you very much guys.

Kaneaki Inoue

University of Oxford 医学部留学 Part 7

僕の暮らすGreen Templeton Collegeの隣にはRadcliffe Infirmary(ラドクリフ診療所)という建物があります。建物の外壁に掲げられたプレートにはこう書かれています。

PENICILLIN
The first antibiotic was first used to treat infection here at the Outpatients building of the former RADCLIFFE INFIRMARY on 12 February 1941

ここは元オックスフォード大学附属病院であり、世界で初めてペニシリンが患者さんに使われた場所なのです。ペニシリンの臨床応用と生産に貢献した功績でオックスフォード大学のFlorey、Chain先生は後に発見者Fleming先生と共に1945年にノーベル医学生理学賞を受賞しました。

附属病院が僕が通うJohn Radcliffe Hospitalに移転した現在、Radcliffe Infirmaryは哲学科と神学科の本部として使われています。隣のAndrew Wiles Mathematics Instituteでは看板が2進数で時を刻んでいたり、政治学科などもあり学術拠点の一つとなっています。

オックスフォードの街は、どこからどこまでがオックスフォード大学という境界がなく、街中に各学部の建物、カレッジの建物が散らばっています。
毎朝オックスフォードの街をジョギングしているときに、いろんな場所でいろんな発見をして、飽きることがありません。
帰国まであと1週間となりましたが、最後までこの街を満喫して帰りたいと思います。

井上カネアキ

University of Oxford 医学部留学 Part 6

“I’m a medical student. Would it be all right if I took blood from you?”

朝の病棟、緊張しながら患者さんに声をかける僕。

オックスフォード大学では患者さんの採血は積極的に学生が行うことを求められています。Acute General Medicineの僕の班の医学部4年生の学生達も、病棟回診中に声がかかればそれぞれ採血を行い、終わったら回診にまた合流します。

こちらに来て2週間、なかなか採血の手をあげない僕にオックスフォードの学生は何度も聞いてきました。Akiは何で採血しないの? え、日本では医学生は採血しないの? どうして?

どうしてでしょうか? 僕にもわかりません。

とりあえず、他の学生の採血には必ず付き添って、どういう風にナースステーションで道具を揃え、どういう風に患者さんに声をかけるか、どうやって手頃な血管を探し、穿刺し、シリンジを取り替えるか、観察をして来ました。
僕と同じくオックスフォードに実習に来ている学生と、採血の練習をしたりもしました。しかし患者さん相手の採血にはいまだに尻込みする自分がいました。

今朝、同僚のフランの採血を見た後、次の採血はどうするの?と聞かれました。
どうしよう? このまま観察しっぱなしで日本に帰るのか?

「I’ll do the next today.」
タイミングよく指導医の先生から採血の声がかかり、僕は思い切って手を上げました。

道具を揃え、冒頭のように患者さんに許可をもらい、目標の静脈を確認し、翼状針を握りしめて、緊張しながら患者さんの肘正中皮静脈に穿刺しても、逆血がなぜか見えません。不安でいっぱいながらも、付き添ってくれてる同僚のフランに励ましてもらいながら、真空シリンジをホルダーに差し込む。暗赤色の静脈血がシリンジを満たして行くのが見えたときは、心底ほっとしました。

患者さんに感謝を伝え、ミーティングで指導医に、患者さんからの初めての採血が1回で成功したことを伝えました。「Great! それじゃ、もう一人お願いできるかな?」

次の採血の患者さんも、1回めの穿刺で採血ができました。このときも、付き添ってくれた同僚のレックスがシリンジの交換を助けてくれました。

採血中、オックスフォードの学生が隣でアシストしてくれたのは本当にありがたかったです。一人ではできないことも、こうやってチームでお互いから学び合えることのありがたみをひしひしと感じました。今日手伝ってくれたフラン、レックス、ありがとう。

今日はたまたま運がよかっただけなのはよくわかっています。今後も毎日採血をして、なるべく患者さんに苦痛を与えないような採血のスキルを身に着けて帰りたいと思います。

井上カネアキ

(写真はオックスフォード大学の図書館の一つ、Radcliffe Camera)