第2回全国医学生臨床推論GPレポート

第2回全国医学生臨床推論GP
2019年11月23日 すみのえ舞昆ホール(大阪市)

37大学・76 チーム・226人

秋晴れの大阪にこれだけの医学生が全国から集結し、臨床推論のNo.1の座を競います。

問題はケースカンファレンス形式で出題され、患者さんの主訴・問診・身体所見・検査結果などが次々と提示され、参加者が回答するのは疾患名のみというとてもわかりやすい形式で行われます。

しかし!さすがに日本の医学界を背負って立つ10人の先生方が選りすぐった症例です。すぐに疾患名がわかる症例などはひとつもありません。

与えられた5分間を最大限に活用し、チームメンバー3人の間で相談し、文献やネットを用いて症状や検査を掘り下げながら、病態生理を考え、患者さんの背景などあらゆる可能性を探り、疾患名を3つ考え出し、提出します。

そのように必死で頑張っても、クイズ後半戦では全76チームが全て不正解という問題が続出しました。厚生労働省のガイドラインに載っている疾患しか出ない医師国家試験との違いを改めて思い知らされ、総合診療、医療の幅広さ、深みというものを考えさせられる良い機会になったと思います。

一症例ごとに難しさに嘆息したり、正解に歓喜の声が上がったり、教育的な症例に感嘆の声が漏れるなか、全10題が終わり、最終結果が発表されました。なんと、3チームが同得点で並び、そこからサドンデス方式の追加症例が開始されました。

1題目は全員が正解で差はつかず、2題目へ。さて、みなさんは何の疾患がわかるでしょうか?

ここで点を稼いた島根大学が優勝の座をもぎ取り、以下、2位福井大学、3位富山大学となりました。

終了後の懇親会では、全国から来た医学生のみなさんや講師の先生方と、今日の問題について話し、医学生生活や、進路についての相談など、遅くまで交流が行われていました。

             

PQJとしては、来年5月30日に東京医科歯科大学で行われる医学生理学クイズ2020(PQJ2020)の参加募集を壇上で行い、多くの医学生が参加してくれることを約束してくれました。

このイベントを特別講演しているPQJを代表して、開催していただいたチーム関西代表の稲葉哲士さん、臨床推論GP代表の平賀英梨佳さん、チーム関西のみなさん、そして司会の松本謙太郎先生、志水太郎先生、素晴らしい症例を提示していただいた10人の先生方、スポンサーのみなさん、全国から参加していただいた医学生のみなさん、ありがとうございました。来年からもこの価値あるイベントが続くことを祈っております。

PQJ事務局長・大阪医科大学6年 井上鐘哲

医学生理学クイズ日本大会2019(PQJ2019) 観戦レポート

5月26日、東京慈恵会医科大学で行われた医学生理学クイズ日本大会2019(PQJ2019)にPQJ事務局長かつ大阪医科大学医学クイズ研究会部長としてチームを率いて参戦しました。とても盛り上がった大会でした。観戦レポートを書きましたのでぜひご一読ください。

医学生理学クイズ日本大会2019(PQJ2019) 観戦レポート

国際学会WONCA APR 2019での発表と”Outstanding Student Activity Award”受賞

5月16日、家庭医療、総合診療の国際学会 WONCA APR 2019(京都国際会館)におけるの僕の発表が、”Outstanding Student Activity Award”を受賞しました。
僕の発表に来てくれたみなさん、ありがとうございました。今回、僕は部長を努め、5年以上活動して来た大阪医科大学国際交流部の活動について発表させていただきました。
国際交流部の活動は留学生と受け入れ元の大学生双方に多大な利益があること、留学生との交流を学生組織が受け持つことの意義、学生がツアーガイドとなって留学生に英語で説明をする意義、低学年のうちに国際交流活動を体験できる意義、1年間に6カ国8大学の留学生と交流することにより、日本に居ながらにして留学体験ができる意義などを説明させていただきました。
会場のアジア各国からの参加者が非常に興味を持って聞いていただき、僕たちが当たり前と思って日常的に行っている留学生との交流活動は、日本や世界の多くの大学ではそうではないことを改めて思い知らされました。
僕自身、国際交流活動を通じて留学生から教わったこと、先輩から教わったことは数限りなくあります。時に単発で終わったり、個人の体験に留まりがちな国際交流ではなく、国際交流部があることの利点は、その継続性なのです。重要なのは、2006年に創設され13年間蓄積した国際交流部の経験とノウハウを次代に繋いで行くことなのです。今回、この発表をすることで、その活動の一端を記録として残すことができたのは、意義があることだと信じます。
会場では、たくさんのアジア各国からの参加者から、大阪医大への留学について問い合わせを受けました。これにより、さらに交流の和が広がればこんなにうれしいことはありません。

鈴木先生、小野先生ら発表を指導していただいた先生方、これまで国際交流部の活動を支えていただいた部員達、参加してくれた大阪医大生、全ての留学生に感謝申し上げます。
これを読んで興味を持った人は、ぜひ国際交流部の活動に参加してみてください。

井上カネアキ

I made a poster presentation at WONCA APR Conference 2019 on May 16th. My presentation at WONCA APR 2019 was awarded the “Outstanding Student Activity Award”.

Thank you those who came to my poster presentation at WONCA APR Conference 2019 today. I presented the activities of the OMC international Communication Club, which I’m a member of 5 years and served as the president last year.
I illustrated that the activities of ICC is beneficial for both the visiting international students and OMC students, the importance of student-run organization leading exchange activities, the importance of student-guided local tour, the benefit of providing a training environment for junior students, the unique virtual study-abroad experience by seeing students from 8 universities in 6 countries a year.
I was so happy that the audiences from various asian countries were eager to listen to my presentation and I was reminded that our activities are so unique.
As I reflect my own experiences, I have learned a lot from visiting students and senior students through the activities of ICC. One of the uniqueness of our club is its continuity. I believe the essential thing is to pass the experiences and know-hows of ICC, founded in 2006, to next generations of students. Today I was so happy that I made some contribution by publishing the activities of ICC for the first time .
It was so exciting that a lot of people who listened to my presentation showed interest in coming to OMC. I am looking forward to seeing that the international exchanges of OMC grow even more in the future.

I’m deeply grateful to Dr Tomio Suzuki, Dr Fumihito Ono for helping my presentation, and to all the ICC members, OMC students, and exchange students for realizing the activities of ICC.
If you get interested in, please don’t hesitate to come to an ICC event.

2019年5月16日 15:00 Kyoto International Conference Center
”The Mission and Activities of the Osaka Medical College International Communication Club”
Kaneaki Inoue, Fumihito Ono, Tomio Suzuki

Kaneaki Inoue

 

オックスフォード大学医学部留学記

2019年3月、僕は医学教育振興財団からの給費派遣生として、英国オックスフォード大学医学部に1ヶ月留学してきました。以下は僕のオックスフォード大学留学について一つの文にまとめたものです。英国の大学、そして医療現場の雰囲気を知りたい人、ぜひ読んでみてください。リンクはご自由にしていただいてかまいせん。

オックスフォード大学Acute General Medicineでの濃密な留学体験

大阪医科大学医学部医学科6年 井上 鐘哲

 

EAU(Emergency Assesment Unit)

“That was very good, Aki!”

オックスフォード大学John Radcliffe病院に来てから2週間、初めて患者さんを一人で診察し報告したとき、指導医のDr. Husseinにかけてもらった言葉です。

オックスフォード大学医学部の4年生は6週間、John Radcliffe病院のAcute General Medicine(急性期総合診療科)に配属されます。急性期総合診療科はEAU(Emergency Assessment Unit)を担当しており、24時間以上4日以内の治療が必要な、多種多様な疾患を持った患者さんを受け持ちます。患者さんの半分は救急から、半分はGP(一般開業医)からの紹介でEAUに入ってきます。配属中の医学生は患者さんの問診、身体診察を行いカルテを書き、鑑別診断を考え、所属診療チームに報告する「Take」という係を週2~3回こなします。Takeには9~16時のDay, 16~21時のEvening、21~翌朝9時のNight Takeがあります。オックスフォード大学の医学生は4年生から患者さんの問診、身体診察、採血など、日本の研修医がやるようなことはなんでもこなします。また、僕のような外国人留学生も同じことをやって当然と考えられています。

オックスフォード大学医学部での1ヶ月間の臨床実習が決まったとき、僕がAcute General Medicineに配属希望を出した最大の理由がこれなのです。今の自分に一番欠けているもの、すなわち英語での問診、身体診察の経験をこれだけ多く得ることができる機会は他にありません。

僕たちAcute General MedicineチームC3所属学生は、EAUに新たな患者さんが来院したことを指導医に告げられると、すぐに救急やGPからの情報を確認し、聞くべきこと、行うべき身体診察の検討をつけて、患者さんのベッドに向かいます。
患者さんに僕が医学生であることを告げ許可を得てから、問診、身体診察をさせてもらいます。
指導医に診察結果を提示したあと、指導医と共に患者さんの所に戻り、一緒に診断をします。僕が聞き取れなかった肺雑音や、見落とした皮膚の発疹を指導医が発見したり、自分が思いつかなった質問により、患者さんの疾患について劇的に見通しがはっきりすることがあり、とても勉強になります。僕が書いたカルテは、指導医のチェックの後、正式なカルテとして後に残るので、気が抜けません。 

こちらに来てから2週間、EAU内で待機して、次から次にやってくる患者さんに、オックスフォード大生とペアを組んでTakeに出かけることを繰り返しました。彼らは既に相当のトレーニングを積んでおり、流れるように問診と身体診察を行う様を隣で見るのは非常に勉強になります。しかし、いまだに一人でTakeを行うチャンスがなく、率直に言って少し焦っていました。ペアでやるとどうしても相棒に頼ってしまい、自分の力を伸ばすことができません。このままだと、本当に自分に必要な経験を得て帰ることができないかもしれない。何のためにイギリスにまで来たのだろう?

この日、たまたま相棒の学生が不在で一人だったので、思い切って上司の先生に頼んでみました。患者さんが来たら一人で診ますからぜひ当ててください、と。午後も3時を過ぎて立て続けに患者さんが来院し、救急の廊下にまであふれだしたとき、「Aki、この人を診てこいよ」と先生が名前とIDを渡してくれました。二つ返事で引き受けて、時間がかかったけど問診、身体診察を行い、診断結果を提示した後、かけていただいたのが冒頭の言葉です。これを機に、後半の2週間は一人でTakeをこなせるようになりました。

病棟での採血についても同じ経験をしました。患者さん相手の採血経験がほとんどなく、最初は尻込みしていた自分も、採血をするオックスフォード大生に付き添って、声のかけ方、道具の揃え方、採血後の処理などの流れを把握するうちに、2週間後には一人で採血をこなすようになりました。初めての採血中、同僚のオックスフォード大生が隣でアドバイスをしてくれて、助けてくれたのは本当にありがたかったです。

Takeにおいても採血においても、一人ではできないことが、こうやってチーム内でお互い助け合い、学び合うことによって、できるようになる。仲間がいることのありがたみをひしひしと感じました。同じチームの4人のオックスフォード大生イヴァ、フラン、フランキー、レックスとは、EAU、病棟、授業などで1ヶ月を共に過ごし、ランチを食べながら、イギリス、日本、将来の夢など様々なことについて語り合い、笑い、最後にはパブで送別会まで開いてもらい、一生の友達になりました。

 

英国の医療制度とGP

英国の国民医療制度(NHS)では医療費は無料であり、人々は最寄りのGPに登録し、救急を除き、まずはGPの診察を受けることが義務付けられています。対して日本の医療は長く医療機関自由選択制をとってきましたが、GP制度への移行が提唱されており、主治医報酬の導入、総合診療専門医の新設などが段階的に行われてきています。今回の英国留学の目的の一つは、英国のGP制度の実態を自らの目で見て、日本の将来の医療のあるべき姿を考えることでした。
John Radcliffe病院で実習を開始してすぐに気づいたのが、この病院には日本のどの病院でも見られるような、会計とその前で待つ患者さんの長蛇の列が見当たらないことでした。診察を見学した総合診療外来では、患者さんは全員がGPから紹介されて来院しているせいか、待合室が過密ではなく、結果として一人ひとりの問診、身体診察、検査に十分な時間がかけられていました。

これに対して、救急科(Emergency Department)は、日夜問わずたくさんの患者さんであふれていました。GPからの紹介が必要なく、無料で受診できることが患者さんが多い理由と考えられます。外傷などを除いた救急科の患者さんの多くは、僕たちが所属するEAUが診察しますが、無料であることも幸いしてか、僕が診た患者さんの全員が、医学生の臨床参加にとても協力的でした。

滞在中、オックスフォードの中心部にあるクリニックでGPをされているDavid McCartney先生の診察を見学することができました。GPを受診する患者さんの疾患は、軽度の精神疾患から外傷、さらに腎移植手術後の長期ケア、COPDや慢性腎不全などの慢性疾患のケアなど、多岐にわたっていました。

McCartney先生にGPの仕事において一番大事なことは何なのかを聞いてみた所、患者さんと長期間の信頼関係を作ることという答えでした。一人一人の患者さんの健康を長期間見守り続けるGPという仕事の志を垣間見た思いがしました。 

 

カレッジで暮らす

オックスフォード大学は44のカレッジで構成され、それぞれのカレッジに学生は所属し、カレッジ内で暮らし、そこから法学部や医学部など所属する学部の校舎に通います。カレッジ対抗のスポーツ大会も多く、勉学以外でも様々な面で競い合っているようです。

僕はGreen Templeton Collegeに1ヶ月間所属し、生活しました。Green Templeton Collegeには特に医学、経済学や社会学専攻の学生が多く所属します。

各カレッジ内には寮、講義室、チャペル、図書館、食堂、バーを備えた娯楽室、洗濯室、ジムなどの建物が庭園の周りに美しく配置されています。カレッジ内で暮らしてみてわかったのは、これほど勉学に理想的な環境はないということです。寮の部屋には共同のキッチンが備わり、ラウンジには常に無料のコーヒー・紅茶があり、知り合いと雑談を楽しむこともできます。図書館は24時間開いており豊富な医学書がいつでも読めて貸し出せます。何より19世紀の歴史的建造物の中で美しい庭園を眺めながら勉強し、思索にふけることは、他では得難い贅沢な体験でした。

留学中、午前6時に起きて各カレッジの荘厳な建物を横目に見ながらオックスフォードの街をジョギングすることが自然と日課になりました。John Radcliffe病院にはIvy Laneという寮があり、そこに滞在する留学生も多いのですが、病院は各カレッジがある街の中心部から遠いのが難点でした。よって僕はカレッジに滞在することを選択し、£80(1.1万円)で中古の自転車を買って病院まで通うことにしました。病院まで自転車で毎朝20分かけて、美しいオックスフォードの街と小川が流れる公園を眺めながら通うのは、面倒などころか毎朝の楽しみでした。

各カレッジには、フォーマルディナーという伝統があります。カレッジに所属する色々な学部の教授陣や学生がカレッジ内のダイニングホールに集まり一緒に食事することで、親交を深め、他分野の人の話を聞くことで見聞が広がる意義があります。Green Templeton Collegeは毎週水、木曜日にフォーマルディナーがあります。滞在中出席したフォーマルディナーでは、食卓の向かいに座った経済学の博士課程の学生や隣のアフリカからの学生と話に花を咲かせました。食事後はコーヒーを飲みながら、中国から来ている公衆衛生学の研究者や、北京大学からオックスフォードのビジネススクールに留学中の学生、同じ医学部の学生達と親交を深めました。

 

臨床実習の留学生達

言うまでもないことですが、オックスフォード大学は英国を代表する国際的な大学であり、キャンパスでは世界中の色々な国から集まった人達に出会います。医学部には様々な国から医学生が臨床実習に集まっており、彼らから世界各国の医療事情や生活を知ることは、とても刺激的な体験でした。僕は仲良くなったブラジル人留学生と共に、留学生親睦会を病院近くのパブで主催した結果、10カ国16人の留学生が集まり、楽しい時間を過ごすことができました。いつも世界の医学生と出会うと、文化による違いよりもむしろ共通点の方を強く感じて、すぐ に仲良くなれます。医療を通じて人々を救いたいという共通の志が、僕たちを結びつけるのかもしれません。

オックスフォード大学医学部の臨床実習担当者Carolyn Cookさんは毎週、新しく来た留学生を僕たちに紹介し、留学生のコミュニティ作りを助けてくれました。滞在中、留学生同士は常にそれぞれが在籍する病院の各診療科や、講義や手技実習の情報などを共有し、助けあって実習を成功させようという雰囲気にあふれていました。

 

イギリス英語

僕が今回の英国留学についていちばん気がかりだったのは、イギリス英語でした。米国の滞在経験があるおかげで日常英会話には苦労しない方なのですが、英国への留学は初めてであり、イギリス英語をしゃべる医師や患者さんの会話が聞き取れるのだろうか不安でした。その不安は、オックスフォードに来てからすぐに取り越し苦労であったことがわかりました。John Radcliffe病院の人達は英国人、外国出身者を含め、ほとんどが聞き取りやすい発音でしゃべり、発音に癖がある人はほんの一部でした。また、John Radcliffe病院を受診する患者さんのほとんどはきれいな発音の英語をしゃべります。オックスフォード、ケンブリッジ地域の発音が標準英語として採用されているという事実を肌で実感することができました。当然、患者さん相手の問診ではほどんど問題がなく意思疎通ができ、日本から実習に来ていることを話すと激励の言葉をもらったり、日本の生活やイギリスの印象について聞かれたりと、たくさんの患者さんと心の触れ合いを経験することができました。

 

オックスフォードでの生活

オックスフォードの街は、どこからどこまでがオックスフォード大学という境界がなく、街中に各学部の建物、カレッジの建物が散らばっています。歴史ある各カレッジは荘厳なチャペルや美しい庭園を備え、映画ハリー・ポッターの撮影に使われたChrist Church Collegeを初めとして、ほとんどが有料で観光客に公開されています。オックスフォード大学の学生は学生証を見せるだけで、全て無料で見ることができ、僕もカレッジ巡りを楽しみました。病院での実習以外の時間は、歴史的建造物であるラドクリフ・カメラという図書館で勉強したり、シェルドニアン・シアターでクラシック音楽を聴いたり、中心街にある英国最古のカフェで美味しいスコーンと紅茶を楽しんだりと、毎日、充実した時間を過ごすことができました。

英国の物価は安いとは言えず、外食は通常£10(約1450円)はかかるので、普段の食事はTESCOなどのスーパーで買って済ませていました。John Radcliffe病院の食堂も特に安くはなく、オックスフォード大生も、昼食を自分で作って持ってきている学生が多いようでした。

オックスフォードの治安は非常によく、警察官の姿を見かけるのはまれであり、病院のNight Takeが終わって深夜2時に所属カレッジまで帰る時でも、中心街に人の姿は多く、特に危険を感じることはありませんでした。

オックスフォードからロンドンまでは鉄道で約1時間、往復£15(約2200円)程で行くことができ、週末にはロンドンで他の英国短期留学派遣生と会ったり観光をすることができました。以前からの友人の英国人医師夫婦と再会し、車でStonehengeやBathを観光したのも良い思い出です。

 

積極的姿勢は自らを助ける

オックスフォード大医学部での1ヶ月間は、自分の想像を超える濃密な留学体験になりました。その最大の理由は間違いなく、ウィリアム・オスラー元教授の教えを受け継ぎベッドサイドでの教育を重視するオックスフォード大学医学部の文化にあります。また、NHSによる無料の医療制度のおかげで患者さんが医学生の診療参加に非常に寛容であり、僕たち留学生に英国の医学生と同等の診療参加の機会が与えられているのも、他の国の医学部にはない特長と言えます。

とは言え、ただオックスフォードに行くだけで、自動的に充実した実習体験が得られるわけではないことも事実です。僕の場合、留学の4ヶ月前から自大学の留学予定者と診療英会話の練習会を作り、週1回、ペアを組んで英語での問診をお互いに行う練習を繰り返しました。先述のように、その準備を持ってしても、単独で患者さんの問診、身体診察を行えるようになるまでには渡英後2週間を要しました。同じAcute General Medicineに所属している各国からの留学生を見ても、一人で問診を行っていたのは、僕以外はブラジル人留学生の一人だけでした。ある留学生にできない理由を聞くと、英語力に自信がなく踏み切れないとのことでした。ブラジル人留学生は、英国で研修医になることを考えており、所属チームの指導医の先生から良い推薦状をもらうためにも、積極的に実習に取り組んでいました。

この積極的姿勢は、実習から得られる経験と正比例の関係にあります。John Radcliffe病院などのNHS傘下病院では、患者さんの電子カルテを閲覧するためには専用のICカードが必要ですが、これは自動的に与えられるわけではなく、病院の担当部署にその必要があることを自ら説明して取得する必要があります。僕は他の留学生から聞いてこれを知り、滞在2週目までには手に入れていました。Takeにおいて患者さんへの問診の内容を決めるのに、電子カルテ内の救急隊からの情報やGPからの紹介文はとても役立つからです。しかし、多くの留学生はこのカードを取得しておらず、そうなると必然的に積極的にTakeに関わらなくなります。留学生の診療参加はそれぞれの自由意志に任されているので、消極的な態度でいると失敗もしない代わりに何も学ぶことがないまま実習が終わってしまう危険もあるのです。

採血においても、僕は少しでもうまくなるために、複数の留学生に声をかけて、留学生同士で採血をし合って練習しました。滞在中、Teachingと言われる各種講義に出席しましたが、そこでも僕は積極的に発言して講義に参加するようにしました。そうする内に、自分の診療チーム以外のオックスフォード大生にも知り合いが増えて行きました。

Takeを始めとする病棟実習では、初めは勝手がわからず苦労しましたが、周りのオックスフォード大生はそんな僕を見てもまったく馬鹿にすることはなく、親身になって助言をくれ、事あるごとに助けてくれました。文化は違えど、積極的な姿勢は必ずその国の人に伝わり、味方になってくれることを確かめられたのは、将来外国での医療に携わる希望がある自分にとって、大きな自信になりました。このようにオックスフォード大生とまったく同じ実習をこなし、濃密な指導を受け続けた結果、1ヶ月後には、患者さんの前で、以前より落ち着いて為すべきことを行えるようになった自分に気づくようになりました。

実習終了時、所属チームの指導医に実習評価表にいただいた「Very motivated and active」という言葉と、同じチームのオックスフォード大生が寄せ書きに書いてくれた「Your kindness and enthusiasm have been very inspiring!」という言葉は僕にとって今回の留学の何よりの勲章です。

最後に

オックスフォード大学への1ヶ月間の留学では、John Radcliffe病院での質量伴った実習体験に加え、オックスフォードというイギリスを代表する古都でイギリス文化の奥深い伝統に触れることができました。また、多種多様な目標と価値観を持つ人たちが世界中から集うカレッジに居住し、オックスフォード大生、留学生を始めたくさんの人々と親交を結ぶことができたのは、かけがえのない経験になりました。来年以降にオックスフォード大学に来られる日本の医学生の皆さんも、ぜひカレッジでの滞在を考慮し、実習においては積極性を忘れずに取り組んでいただければ素晴らしい経験が得られると信じます。

 

謝辞

僕を暖かく迎えていただき、たくさんのことを教えていただいたオックスフォード大学のCarolyn Cookさん、Dr. Zeinab Hussein、Dr. Jo Hardwick、Dr. Krishna Navaneetham、Dr. Tim Rajakumar、Dr.Anna Fries、所属チームの同僚のEva Zelber、Francesca Roxburgh、Frankie Bell-Davies、Rex English、教育のためならと僕の診察に快く協力していただいたJohn Radcliffe病院の患者さん達、英国でお世話になった全ての人々、今回の留学の実現にご尽力いただいた小野富三人教授、大槻勝紀学長ら大阪医科大学の皆様、そして医学教育振興財団の皆様に厚くお礼申し上げます。

 

滞在中の必要経費

交通費    Heathrow空港からOxfordまでの往復バス代 £30

Oxfordでのバス回数券代(5日) £15

自転車(中古) £80

滞在費    洗濯費等 £15

寮費      Green Templeton College accomodation 一ヶ月£565

食費      1日約£15

Green Templeton College Formal dinner £13.12

実習費    なし

通信費    携帯SIM £20

連絡先

e-mail: kaneaki21(at)gmail.com

Facebook: facebook.com/kaneaki21

Homepage: kaneaki.net

オックスフォード大留学についてご質問があればいつでもお気軽にご連絡ください。

 

Thomas Jefferson University臨床研修

2018年3月、僕は野口医学研究所からの派遣生として、米国ペンシルベニア州フィラデルフィアのトマス・ジェファーソン大学附属病院で1週間の臨床研修プログラムに参加してきました。以下はそのレポートです。同プログラムへの参加を希望する医学生、臨床研修プログラムとはどのようなものかを知りたい人、米国の医療現場の雰囲気を知りたい人、ぜひ読んでみてください。

 

Thomas Jefferson University臨床研修レポート

大阪医科大学医学部医学科 5年

井上 鐘哲

2018年4月13日

医療は人種を選ばず、国境を超えて人を救うものであることに共感し、僕は国際医療を志して医学を学んでいる。しかし、海外での医療の具体的な姿を知る機会は少なく、必然的に卒業後の進路も決め兼ねていた。英語に関してはある程度は自信があり、過去にアメリカで暮らした経験もあるので、米国の医療に興味はある。とは言え果たして米国生まれではないアジア人である自分が、文化的な背景が全く違う米国人の患者とうまくコミュニケーションを取り、医師として働いて行くことができるのだろうか。悶々としていたときに、野口医学研究所主催のTJU(Thomas Jefferson University)臨床研修を知り、米国の臨床現場を体験するという貴重な機会を与えていただいた。以下、実際に海外の臨床現場を体験して、思ったことを書いていく。

TJUでは、月・火曜日に救急科、水曜日に内科の病棟と神経内科の外来、木曜日は小児科外来、金曜日は家庭医外来と短期間に多くの科をまわり、濃密な臨床現場体験をすることができた。

その中で印象深かったことに、これら全ての臨床現場で、アジア系をはじめ米国以外出身の医師達が活躍し、また彼らのコミュニケーションスキルが高いことであった。救急科で同行した韓国系のYoungJun Chai先生は、患者さんが危険な徴候を抱えていないかを熱心に検討しながらも、患者さんの前ではどんな訴えにも「All righty!」と常に笑顔で受け応えをするとても人当たりの良い先生であった。小児科外来では、インド系のLokesh Shah先生に同行した。彼は幼児からティーンエージャーまで様々な患者とその両親に穏やかに接しながらも、喫煙の禁止や虐待などの問題を孕んだ母子関係についてなど、必要とあれば躊躇なくその人のライフスタイルにまで踏み込んで助言を与えていた。

実習が進むに連れ、彼らのコミュニケーション能力の高さは、米国の医師にとって必須と言っていい能力であることがわかってきた。TJUが位置するフィラデルフィアの中心部は、人種的、文化的に多様な地域であり、来院する人は様々なアクセントの英語を話し、中には英語を解さない人もいる。それらの人々すべてに対応し、公平に良質な医療を提供するためには、言葉に加えて表情やボディランゲージを含めた全身で患者さんと通じ合える能力が必要になる。彼らの患者さんとの応対を見ていると、医師としての権威を笠に着て患者さんに接することは全くなく、深刻な事態においても時にはジョークを交えながら患者さんと朗らかに受け答えをして、人間同士の信頼感を築くことを重視していることがわかった。実習前の僕が抱いていた不安のように、外国人だからと腰が引けた姿勢で診療に当たると患者さんの為にはならず、TJUの外国出身の医師達が実践しているように、自信を持って積極的にコミュニケーションすることが良質な医療につながることが理解できたことは、僕にとって一番の収穫であった。

次に印象深かったことは、米国の実践的な医学生教育であった。内科の病棟研修では、指導医のBen Khazan先生率いるチームに同行し、レジデント2人、看護師一人、医学生2人、Physician Assistant学生1人の医療チームと一緒に回らせていただいた。ここでは医学生がそれぞれ自分の担当患者を持っており、回診の前に患者さんの現在の状態をチーム全体に説明し、指導医からの矢継ぎ早の質問に答える。回診が終わった後も、レジデントや指導医の先生の意見を仰ぎながら、自分の患者の治療方針決定に積極的に関わっていた。見学が主体の現在の日本の医学部におけるクリニカル・クラークシップと大きく違う点であり、TJU研修前にもこの違いについて聞いてはいたものの、実際に目の前で見ると、むしろこれこそが本来あるべき姿であるとの印象を持った。医学生が自分の担当患者を持つことで、より患者さんの病状に注意を払い、治すために知恵を絞り、指導医に積極的に質問している姿を見て、自分にもこれができないはずはないと感じた。帰国後に始まる自大学での病棟実習において、自分も同じように主体的に患者さんの治療に関わっていくことを誓った。

この研修で忘れられない経験になったことに、JeffHOPEとChinatown Clinicの活動に接したことがある。JeffHOPEは、TJUの医学生が創始した団体であり、ホームレスや恵まれない人達のシェルターを医学生が訪問し、彼らを問診、検査し、医師の監督のもとに処方を決めて行くのである。これに類する活動で、通常の医療を受けることができない移民の人などのためにチャイナタウンの教会で行われているChinatown Clinicがあり。僕はこれに参加させていただいた。

患者さんは、滞在権などの問題で健康保険がなく、通常の病院に来ることができない移民の人々がほとんどであった。僕は患者さんの血圧を測ったり、心電図の電極貼りを手伝ったりと、一ヶ月前に受けたばかりのOSCEの経験が生きて、わずかだが患者さんの役に立つことができた。ここでの治療をボランティアで主導しておられるWayne Bond Lau先生には、このような恵まれない人相手に医療を行うことの大切さを教えていただいた。さらにTJU、ペンシルベニア大、僕達と同様に外国から参加している医学生と大いに語らい、医療に対する思いを共有することができ、このような活動を日本でも行うことができたらどんなに素晴らしいだろうかと感じた。

TJUでの実習期間を通じて、共に研修していた8人の仲間とは、毎日一緒に行動し、チャイナタウンでフォーや飲茶を楽しみ、独立記念館やフィラデルフィア美術館、Mutter Museum(たくさんの解剖標本がある)を観光し、時には自分の将来の進路や悩みなどについてアイリッシュパブでビールを飲みながら語り合い、フィラデルフィア生活を満喫することができた。

 

最後に、TJU実習の全期間を通じて、僕の頭の中に繰り返し反響していたempathy(共感力)という言葉について述べる。empathyとは、単に同情することではなく、相手の立場に立って相手の感情を理解する能力を指す。昨年12月、野口医学研究所で行われた本実習の選考会において、Gonnella先生は、empathyの高い医師が受け持つ患者さんほど、治癒率が有意に高いこと、臨床現場に出た医学生は理想と現実のギャップに幻滅して共感力が下がる傾向があり、それを克服することの重要性を指摘された。

TJU実習の医療現場では、検査で異常が見つからないのに原因不明の痛みを繰り返し訴える患者、英語を解さず中国語で症状を訴える患者、医療処置に不満を持ち、医師に対して怒りを露わにする患者など、様々な難しい場面に出会った。そのたびに、僕が同行させていただいた医師は、笑顔を崩さすことなく患者の訴えに真剣に耳を傾け、彼らの身体の状態をわかりやすく説明し、患者に取って最良の処置を取ることに腐心されていた。その姿を間近に見ながら、これを可能にしているのは、まさに医師のempathyであるということを再確認した。

今回の実習では、国際医療に関わりたいという自分の理想に対して、それに懸ける勇気が今ひとつ持てないという現実との間のギャップを埋めるものを発見することができた。それは、コミュニケーション能力とempathyの2つである。僕は今後これらをさらに向上させる努力を絶やさずに、自分の理想の実現の為に邁進して行くつもりである。今回、僕の人生の宝物となるであろう素晴らしい機会を提供していただいた野口医学研究所の皆様、そして僕達を暖かく受け入れていただき、たくさんのことを惜しみなく教えていただいたTJUとChinatown Clinicの関係者の皆さんに心から感謝申し上げる。

 

謝辞 今回のTJUでの実習を実現させてくださった野口医学研究所の皆さん、特にフィラデルフィアで歓迎会まで開いていただいた浅野嘉久先生に心から感謝いたします。また、現地で僕達の面倒を見ていただいたJefferson Japan Centerのラディ由美子さん、Janice BogenさんをはじめとするOIEのみなさん、毎朝早くから僕達を案内していただいたTJU医学部のStephanie WeyさんとAngell Shiさん、TJUで僕を指導していただいたYoungJun Chai先生、Ben Khazan先生、Lokesh Shah先生、Wayne Bond Lau先生、Bruce Reaves先生、Stephanie Nahas Geiger先生、他多数の皆様方に心から感謝いたします。