University of Oxford 医学部留学 Part 7

僕の暮らすGreen Templeton Collegeの隣にはRadcliffe Infirmary(ラドクリフ診療所)という建物があります。建物の外壁に掲げられたプレートにはこう書かれています。

PENICILLIN
The first antibiotic was first used to treat infection here at the Outpatients building of the former RADCLIFFE INFIRMARY on 12 February 1941

ここは元オックスフォード大学附属病院であり、世界で初めてペニシリンが患者さんに使われた場所なのです。ペニシリンの臨床応用と生産に貢献した功績でオックスフォード大学のFlorey、Chain先生は後に発見者Fleming先生と共に1945年にノーベル医学生理学賞を受賞しました。

附属病院が僕が通うJohn Radcliffe Hospitalに移転した現在、Radcliffe Infirmaryは哲学科と神学科の本部として使われています。隣のAndrew Wiles Mathematics Instituteでは看板が2進数で時を刻んでいたり、政治学科などもあり学術拠点の一つとなっています。

オックスフォードの街は、どこからどこまでがオックスフォード大学という境界がなく、街中に各学部の建物、カレッジの建物が散らばっています。
毎朝オックスフォードの街をジョギングしているときに、いろんな場所でいろんな発見をして、飽きることがありません。
帰国まであと1週間となりましたが、最後までこの街を満喫して帰りたいと思います。

井上カネアキ

University of Oxford 医学部留学 Part 6

“I’m a medical student. Would it be all right if I took blood from you?”

朝の病棟、緊張しながら患者さんに声をかける僕。

オックスフォード大学では患者さんの採血は積極的に学生が行うことを求められています。Acute General Medicineの僕の班の医学部4年生の学生達も、病棟回診中に声がかかればそれぞれ採血を行い、終わったら回診にまた合流します。

こちらに来て2週間、なかなか採血の手をあげない僕にオックスフォードの学生は何度も聞いてきました。Akiは何で採血しないの? え、日本では医学生は採血しないの? どうして?

どうしてでしょうか? 僕にもわかりません。

とりあえず、他の学生の採血には必ず付き添って、どういう風にナースステーションで道具を揃え、どういう風に患者さんに声をかけるか、どうやって手頃な血管を探し、穿刺し、シリンジを取り替えるか、観察をして来ました。
僕と同じくオックスフォードに実習に来ている学生と、採血の練習をしたりもしました。しかし患者さん相手の採血にはいまだに尻込みする自分がいました。

今朝、同僚のフランの採血を見た後、次の採血はどうするの?と聞かれました。
どうしよう? このまま観察しっぱなしで日本に帰るのか?

「I’ll do the next today.」
タイミングよく指導医の先生から採血の声がかかり、僕は思い切って手を上げました。

道具を揃え、冒頭のように患者さんに許可をもらい、目標の静脈を確認し、翼状針を握りしめて、緊張しながら患者さんの肘正中皮静脈に穿刺しても、逆血がなぜか見えません。不安でいっぱいながらも、付き添ってくれてる同僚のフランに励ましてもらいながら、真空シリンジをホルダーに差し込む。暗赤色の静脈血がシリンジを満たして行くのが見えたときは、心底ほっとしました。

患者さんに感謝を伝え、ミーティングで指導医に、患者さんからの初めての採血が1回で成功したことを伝えました。「Great! それじゃ、もう一人お願いできるかな?」

次の採血の患者さんも、1回めの穿刺で採血ができました。このときも、付き添ってくれた同僚のレックスがシリンジの交換を助けてくれました。

採血中、オックスフォードの学生が隣でアシストしてくれたのは本当にありがたかったです。一人ではできないことも、こうやってチームでお互いから学び合えることのありがたみをひしひしと感じました。今日手伝ってくれたフラン、レックス、ありがとう。

今日はたまたま運がよかっただけなのはよくわかっています。今後も毎日採血をして、なるべく患者さんに苦痛を与えないような採血のスキルを身に着けて帰りたいと思います。

井上カネアキ

(写真はオックスフォード大学の図書館の一つ、Radcliffe Camera)

University of Oxford 医学部留学 Part 5

“That was very good, Aki!”

オックスフォード大附属病院に来てから2週間、今日初めて患者さんを一人で診察し、指導医の先生にプレゼンしたときにかけてもらった言葉です。

オックスフォード大学では、4年生は6週間、救急総合診療科に配属されます。救急総合診療科はEAU(Emergency Assessment Unit)を担当しており、主に24時間以上4日以内の治療が必要な患者さんを受け持ちます。患者さんの半分は救急から、半分はGP(家庭医)からの紹介でEAUに入ってきます。

配属中、オックスフォード大学の学生は患者さんの問診、身体診察を行いカルテを書き、指導医に報告する”Take”という係を週2〜3回こなします。Takeには9〜16時のDay, 16〜21時のEvening、21〜翌朝9時のNight Takeがあります。

実は僕が救急総合診療科に配属希望を出した最大の理由がこれなのです。今の自分に一番欠けているもの、すなわち英語での問診、身体診察の経験をこれだけ多く得ることができる機会はありません。

イギリスの医学生は4年生から患者さん相手の問診、身体診察、採血、それこそ日本の研修医がやるようなことはなんでもこなします。また、僕のような外国人留学生も同じことをやって当然と考えられています。

こちらに来てから2週間、TakeではEAU内で待機して、次から次にやってくる患者さんに、オックスフォードの同僚の学生一人とペアを組んで問診、身体診察に出かけることを繰り返しました。しかし、いまだに一人でTakeをやるチャンスがなく、率直な所、少し焦っていました。ペアでやるとどうしても相棒に頼ってしまい、自分の力を伸ばすことができません。このままだと、本当に自分に必要な経験を得て帰ることができないかもしれない。何のためにイギリスにまで来たのか?

今日はたまたま、相棒の学生がいなくて一人だったので、思い切って上司の先生に頼んでみました。患者さんが来たら一人で診ますからぜひ当ててくださいと。午後も3時を過ぎて立て続けに患者さんが来院し、救急の廊下にまであふれだしたとき、「Aki、この人を診てこいよ」と先生が名前とIDを渡してくれました。
二つ返事で引き受けて、時間がかかったけど問診、身体診察を行い、診断結果(必ず自分の考えた鑑別診断を言わないといけません)をプレゼンしたら、所属チームの指導医の先生が冒頭の言葉をかけてくれました。

これからどんどん患者さんを当ててくださいと上司に言ったので、ますます忙しくなるけど、救急総合診療科は様々な疾患の患者さんが来るので本当に飽きません。帰国するまでの残り2週間、たくさんのことを学んで帰ろうと思います。

井上カネアキ

 

 

University of Oxford 医学部留学 Part 4

One of the privileges of being in Oxford is being able to enjoy a wealth of historic architectures.
Every morning I get up at 5AM(I’m still a bit jetlagged) to go jogging, passing through narrow alleys paved in medieval era, enjoying gorgeous architectures flowing past in my sights.
This morning I jogged past the former house of Sir William Osler, a former Oxford medical school professor. The house is now part of one of the campus buildings of my college, Green Templeton college.

Kaneaki Inoue

 

University of Oxford 医学部留学 Part 3

Medical elective students come from all parts of the world to University of Oxford Medical school. Australia, Belgium, Brazil, China, Jordan, Singapore, Japan…
Tonight Matheus from Brazil and I organized the party for Medical elective students at the fabulous pub near our college.
We had a nice beer and wine and talked about what we’re up to in Oxford Medical School and our lives as future doctors.
Thank you all for coming. I hope everyone has enjoyed the lovely party and we’ll have another one again soon.

Kaneaki Inoue

 

University of Oxford 医学部留学 Part 2

(Oxfordから帰国してしばらく経ち、やっと時間ができたので当時書いた文を順次投稿して行きます)

滞在しているGreen Templeton College内の自室からは、自転車でオックスフォード大学附属病院であるJohn Radcliffe Hospitalに通っています。

パブ(居酒屋)の隣の小道をすり抜け、美しい芝生と湿地帯と滝がある公園を突っきり、坂道を登りと変化に富んだ約20分のコースです。

帰りは寄り道をしてオックスフォードの街中に点在するいろんなカレッジを眺めて回っています(各カレッジは観光客の見学が多く、入場料を取るところが多いのですが、オックスフォード大の学生証があれば自分の所属カレッジ以外でも全てのカレッジに自由に入れます)

井上カネアキ

医学生理学日本大会2019(PQJ2019) 参加者募集

いよいよ、5月26日(日)に東京慈恵会医科大学で行われる医学生理学クイズ日本大会2019(PQJ2019)の開幕が間近に迫ってきました!

全国の大学生が集まり、生理学の知識をクイズで競い合ってNo.1を決めるのがこの大会です。終了後には親睦パーティーがあり、各地から集まった大学生と親交を結べます。

今からでも参加は間に合います! 2〜5人の大学生を集めてご登録ください。

PQJ2019の参加登録は5月8日(水)までです。

こちら

からお申し込みください。

クイズ出場はしないが他のすべての行事に参加できるオブザーバー参加も可能です。上記のリンクからお申し込みください。

◯医学生理学クイズ日本大会2019 概要

日時:2019年5月26日(日)
会場:東京慈恵会医科大学 西新橋キャンパス
後援:東京慈恵会医科大学、日本生理学会
クイズ出場資格:大学生(国内、国外、学部、学年、性別、国籍を問わない。)
参加費:1人3000円(記念品、懇親会費含む)
参加方法:ホームページ、emailを通じての申し込み

大会の準備の様子や、参加に関する情報を大会公式ホームページ、Facebookページで公開しております。
ホームページ:https://pqj2019.wixsite.com/index
Facebook:http://facebook.com/physiologyquiz/
Twitter:@2019Pqj

大会に関してのご質問は以下にお送りください。
<メールアドレス>
pqj2019@gmail.com
2019年5月26日(日)、東京慈恵会医科大学でお待ちしております。

 

◯参考

PQJ2018(鳥取大)の模様

https://physiology-quiz-festival.jimdo.com/album/

PQJ2017(大阪医大)の模様

http://plaza.umin.ac.jp/~PQJ/category/%e3%83%95%e3%82%a9%e3%83%88

PQJの歴代上位入賞チーム

PQJ Hall of Fame

(PQJ事務局長 井上鐘哲)

University of Oxford 医学部留学 Part 1

「Welcome to Green Templeton!」

大阪から16時間の飛行時間と1時間半のバスの旅路のあと、重いトランクを引きずりながらオックスフォード大学にたどり着いた僕を、これから1ヶ月間所属し、暮らすことになるGreen Templeton Collegeの施設担当者が迎えてくれました。

オックスフォード大学は44のカレッジで構成され、それぞれのカレッジに学生は所属し、カレッジ内の寮で暮らし、イベントに参加し、勉学を行います。カレッジ対抗のスポーツ大会も多く、勉学以外でも様々な面で競い合っているようです。
医学部や文学部などそれぞれの学部の建物は別にあり、学生はカレッジからそれらに通います。
僕が所属するGreen Templeton College(GTC)は医学、マネジメントや社会学専攻の学生が主体のようです。

GTCの象徴的な建物は1773年に建てられたラドクリフ天文台(Radcliffe Observatory)であり、今ではダイニングホールになっています。この隣の建物が寮になっており、僕の部屋もここにあります。庭は芝生がきれいに手入れされ、季節の花が咲いています。

今朝は到着後オックスフォードの街をジョギングして来ました。まだまだイギリスも日本と同じくらい肌寒いのですが、桜がそこかしこで咲いていました。

僕はこれから3月31日まで、オックスフォード大学附属John Radcliffe病院のAcute General Medicine(救急総合診療部)で、1ヶ月間の臨床実習を行います。

ここに来た一番大きな理由は、GP(General Practitioner)制度の長い歴史がある英国で、どのようにGP制度と急性期、専門医療が成り立っているかを、実際に現場で実習して肌で理解することです。ここで得た経験が、様々な問題を抱える今後の日本の医療について、自分なりの視点を確立するための助けになると信じています。
また、英国では問診、採血などは医学生がすることが当たり前であり、ここで実践的な実習体験を積むことが、国際医療に興味がある自分の将来のキャリアの重要な一歩になると考えています。

今回の留学の派遣生に僕を選んでいただいた医学教育振興財団、推薦していただいた大阪医科大学大槻学長、生理学教室教授小野富三人教授、準備を手伝っていただいた学務課のみなさんに心から感謝申し上げます。

今後一ヶ月間、ここでの体験を伝えていきたいと思います。

井上カネアキ

 

 

 

 

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Thomas Jefferson University 臨床実習説明会

医学部4年生、5年生のみなさん、春休みに米国の病院で臨床研修をしてみませんか?
野口医学研究所は、今年度の米国フィラデルフィア、プログラムに派遣する医学生の募集を開始しています。派遣期間は2019年3月末の約10日間です。
当プログラムの派遣生に選ばれれば、参加費は野口医学研究所が負担します(米国現地までの交通費、滞在費は自己負担)。

今週木曜日、昨年度の当プログラムに参加した5年生井上鐘哲が、当プログラムの参加体験と、選考面接の準備の方法などを教える説明会を大阪医科大学で開きます。
本年度の留学を考えていなくても、将来の海外医学留学に興味があるなら、お気軽にお越しください。何年生でも参加可能です。どの大学の医学部生も参加できます。
質問がある方は、井上までLINEやfacebookで気軽にお聞きください。

日時 10月25日(木) 17:00-18:00
場所 新講義実習棟 P715
主催 大阪医科大学国際交流部
参加費 無料

野口医学研究所 2018年度 医学生臨床留学プログラム
http://www.noguchi-net.com/program/for_student.html

Thomas Jefferson University臨床研修

2018年3月、僕は野口医学研究所からの派遣生として、米国ペンシルベニア州フィラデルフィアのトマス・ジェファーソン大学附属病院で1週間の臨床研修プログラムに参加してきました。以下はそのレポートです。同プログラムへの参加を希望する医学生、臨床研修プログラムとはどのようなものかを知りたい人、米国の医療現場の雰囲気を知りたい人、ぜひ読んでみてください。

 

Thomas Jefferson University臨床研修レポート

大阪医科大学医学部医学科 5年

井上 鐘哲

2018年4月13日

医療は人種を選ばず、国境を超えて人を救うものであることに共感し、僕は国際医療を志して医学を学んでいる。しかし、海外での医療の具体的な姿を知る機会は少なく、必然的に卒業後の進路も決め兼ねていた。英語に関してはある程度は自信があり、過去にアメリカで暮らした経験もあるので、米国の医療に興味はある。とは言え果たして米国生まれではないアジア人である自分が、文化的な背景が全く違う米国人の患者とうまくコミュニケーションを取り、医師として働いて行くことができるのだろうか。悶々としていたときに、野口医学研究所主催のTJU(Thomas Jefferson University)臨床研修を知り、米国の臨床現場を体験するという貴重な機会を与えていただいた。以下、実際に海外の臨床現場を体験して、思ったことを書いていく。

TJUでは、月・火曜日に救急科、水曜日に内科の病棟と神経内科の外来、木曜日は小児科外来、金曜日は家庭医外来と短期間に多くの科をまわり、濃密な臨床現場体験をすることができた。

その中で印象深かったことに、これら全ての臨床現場で、アジア系をはじめ米国以外出身の医師達が活躍し、また彼らのコミュニケーションスキルが高いことであった。救急科で同行した韓国系のYoungJun Chai先生は、患者さんが危険な徴候を抱えていないかを熱心に検討しながらも、患者さんの前ではどんな訴えにも「All righty!」と常に笑顔で受け応えをするとても人当たりの良い先生であった。小児科外来では、インド系のLokesh Shah先生に同行した。彼は幼児からティーンエージャーまで様々な患者とその両親に穏やかに接しながらも、喫煙の禁止や虐待などの問題を孕んだ母子関係についてなど、必要とあれば躊躇なくその人のライフスタイルにまで踏み込んで助言を与えていた。

実習が進むに連れ、彼らのコミュニケーション能力の高さは、米国の医師にとって必須と言っていい能力であることがわかってきた。TJUが位置するフィラデルフィアの中心部は、人種的、文化的に多様な地域であり、来院する人は様々なアクセントの英語を話し、中には英語を解さない人もいる。それらの人々すべてに対応し、公平に良質な医療を提供するためには、言葉に加えて表情やボディランゲージを含めた全身で患者さんと通じ合える能力が必要になる。彼らの患者さんとの応対を見ていると、医師としての権威を笠に着て患者さんに接することは全くなく、深刻な事態においても時にはジョークを交えながら患者さんと朗らかに受け答えをして、人間同士の信頼感を築くことを重視していることがわかった。実習前の僕が抱いていた不安のように、外国人だからと腰が引けた姿勢で診療に当たると患者さんの為にはならず、TJUの外国出身の医師達が実践しているように、自信を持って積極的にコミュニケーションすることが良質な医療につながることが理解できたことは、僕にとって一番の収穫であった。

次に印象深かったことは、米国の実践的な医学生教育であった。内科の病棟研修では、指導医のBen Khazan先生率いるチームに同行し、レジデント2人、看護師一人、医学生2人、Physician Assistant学生1人の医療チームと一緒に回らせていただいた。ここでは医学生がそれぞれ自分の担当患者を持っており、回診の前に患者さんの現在の状態をチーム全体に説明し、指導医からの矢継ぎ早の質問に答える。回診が終わった後も、レジデントや指導医の先生の意見を仰ぎながら、自分の患者の治療方針決定に積極的に関わっていた。見学が主体の現在の日本の医学部におけるクリニカル・クラークシップと大きく違う点であり、TJU研修前にもこの違いについて聞いてはいたものの、実際に目の前で見ると、むしろこれこそが本来あるべき姿であるとの印象を持った。医学生が自分の担当患者を持つことで、より患者さんの病状に注意を払い、治すために知恵を絞り、指導医に積極的に質問している姿を見て、自分にもこれができないはずはないと感じた。帰国後に始まる自大学での病棟実習において、自分も同じように主体的に患者さんの治療に関わっていくことを誓った。

この研修で忘れられない経験になったことに、JeffHOPEとChinatown Clinicの活動に接したことがある。JeffHOPEは、TJUの医学生が創始した団体であり、ホームレスや恵まれない人達のシェルターを医学生が訪問し、彼らを問診、検査し、医師の監督のもとに処方を決めて行くのである。これに類する活動で、通常の医療を受けることができない移民の人などのためにチャイナタウンの教会で行われているChinatown Clinicがあり。僕はこれに参加させていただいた。

患者さんは、滞在権などの問題で健康保険がなく、通常の病院に来ることができない移民の人々がほとんどであった。僕は患者さんの血圧を測ったり、心電図の電極貼りを手伝ったりと、一ヶ月前に受けたばかりのOSCEの経験が生きて、わずかだが患者さんの役に立つことができた。ここでの治療をボランティアで主導しておられるWayne Bond Lau先生には、このような恵まれない人相手に医療を行うことの大切さを教えていただいた。さらにTJU、ペンシルベニア大、僕達と同様に外国から参加している医学生と大いに語らい、医療に対する思いを共有することができ、このような活動を日本でも行うことができたらどんなに素晴らしいだろうかと感じた。

TJUでの実習期間を通じて、共に研修していた8人の仲間とは、毎日一緒に行動し、チャイナタウンでフォーや飲茶を楽しみ、独立記念館やフィラデルフィア美術館、Mutter Museum(たくさんの解剖標本がある)を観光し、時には自分の将来の進路や悩みなどについてアイリッシュパブでビールを飲みながら語り合い、フィラデルフィア生活を満喫することができた。

 

最後に、TJU実習の全期間を通じて、僕の頭の中に繰り返し反響していたempathy(共感力)という言葉について述べる。empathyとは、単に同情することではなく、相手の立場に立って相手の感情を理解する能力を指す。昨年12月、野口医学研究所で行われた本実習の選考会において、Gonnella先生は、empathyの高い医師が受け持つ患者さんほど、治癒率が有意に高いこと、臨床現場に出た医学生は理想と現実のギャップに幻滅して共感力が下がる傾向があり、それを克服することの重要性を指摘された。

TJU実習の医療現場では、検査で異常が見つからないのに原因不明の痛みを繰り返し訴える患者、英語を解さず中国語で症状を訴える患者、医療処置に不満を持ち、医師に対して怒りを露わにする患者など、様々な難しい場面に出会った。そのたびに、僕が同行させていただいた医師は、笑顔を崩さすことなく患者の訴えに真剣に耳を傾け、彼らの身体の状態をわかりやすく説明し、患者に取って最良の処置を取ることに腐心されていた。その姿を間近に見ながら、これを可能にしているのは、まさに医師のempathyであるということを再確認した。

今回の実習では、国際医療に関わりたいという自分の理想に対して、それに懸ける勇気が今ひとつ持てないという現実との間のギャップを埋めるものを発見することができた。それは、コミュニケーション能力とempathyの2つである。僕は今後これらをさらに向上させる努力を絶やさずに、自分の理想の実現の為に邁進して行くつもりである。今回、僕の人生の宝物となるであろう素晴らしい機会を提供していただいた野口医学研究所の皆様、そして僕達を暖かく受け入れていただき、たくさんのことを惜しみなく教えていただいたTJUとChinatown Clinicの関係者の皆さんに心から感謝申し上げる。

 

謝辞 今回のTJUでの実習を実現させてくださった野口医学研究所の皆さん、特にフィラデルフィアで歓迎会まで開いていただいた浅野嘉久先生に心から感謝いたします。また、現地で僕達の面倒を見ていただいたJefferson Japan Centerのラディ由美子さん、Janice BogenさんをはじめとするOIEのみなさん、毎朝早くから僕達を案内していただいたTJU医学部のStephanie WeyさんとAngell Shiさん、TJUで僕を指導していただいたYoungJun Chai先生、Ben Khazan先生、Lokesh Shah先生、Wayne Bond Lau先生、Bruce Reaves先生、Stephanie Nahas Geiger先生、他多数の皆様方に心から感謝いたします。